第十章ノ一:令するに文を以ってし、これを斉うるに武を以ってす。
この章では将と組織について学ぶ。
人は常に気持ちと従う損得を天秤にかけている。
親しくなければ従う気が起きない。
背いてもさほど悪いと思わない。
ただ、親しいだけでは律することはできず、より質の高い組織にするにはやはり厳しい面も必要だろう。
卒、いまだ親附(しんぷ)せざるに而もこれを罰すれば、即ち服せず、服せざれば即ち用い難きなり。
兵士がまだ親しみを感じていないときに罰すれば、心服せず、心服しないと使いにくい。
卒、親附せるにしかも罰行わざれば、即ち用うべからずなり。
逆に兵士が親しみを感じているのに罰せられなければ、うまく使えない。
故にこれに令するに文を以ってし、これを斉(ととの)うるに武を以ってす。
したがって兵士を律するには恩徳をもって行い、刑罰で統制し軍として成立させる。
これを必取と謂う。
これが必勝の軍の作り方である。
今、素より行われて、以ってその民を救うれば、即ち民服す。
こういうことが平素より行われており、民が世話されていれば、民は心服する。
まずは親しみを感じさせ(惚れさせ)、その上で懲罰は厳しく律すれば、民はやっていいこと、悪いこと、やるべきことを知る。そこに適宜命令をすれば従うことにも慣れてくる。そういうことを普段からやっていないと、軍(民)をうまく率いることができない。
卒を視ること嬰児(えいじ)のごとし、故にこれを深谿(しんけい)に赴くべし。
将にとって兵士は赤子のようなもので、だから深い谷まで共に行軍する。
卒を視ること愛子(あいし)のごとし、故にこれを惧に死すべし。
将にとって兵士は我が子のようなもので、だから喜んで子を共にする。
まず最強の軍を作る第一歩は親しみなつかれること、しかしながら同時に厳しく律することであった。
そういう民を率いて闘うときはこれを頭に入れておきたい。
敵を殺すものは怒なり、敵の利を取るものは貨なり。
敵を倒すのは強い敵愾心であり、敵から奪って有利にさせるには十分な賞賜(しょうし)である。
戦いの際は十分に士気を高め、功労者には賞賜を準備する。
民の感情をその目的に適したものに揃えることが肝要だ。
次回予告
メンバーと心理的に距離が離れていてよしとするリーダーはいないだろう。
仕事は仕事、馴れ合いは不要だ、そういう人もいるかも知れないが、これは馴れ合いではない。相手を大事に思う心だ。同じ組織に属しているなら、私もあなたも同じ組織の一員として同じ船に乗っているのだ。
民の律し方(手なづけ方)はわかった。では優れた将とはどういうものか。
次回はそれを学ぶ。
お楽しみに!
参考図書
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