第六章:善く戦う者は、人を致して人に致されず。
相手のことをよく分析し、弱点をついて先手を取る利点を学んだ。
(その前に戦わないで勝つのが最善だとも学んだ)
しかし、こうした考えが最も有効なのは初戦だ。
こちらのやり方を学んでしまった相手は当然対応策を練ってくる。
善く戦う者は、人を致して人に致されず。
戦上手は相手を自分の作戦に乗せ、相手の作戦に乗らない。
相手の思い通りにさせず、こちらが主導権を握って戦うとよいとある。
よく敵人(てきじん)をして自ら至らしむるは、これを利すればなり。
敵に自発的に行動を起こさせるには、「そうすれば利益になる」と思わせることが必要である。
よく敵人をして至るを得ざらしむるは、これを害すればなり。
敵に行動を起こさせないようにするには、「そうすれば不利益になる」と思わせることが必要である。
いよいよ戦いの核心に近づいてきた。
例えば相手に「ここが弱点ですよ、手薄ですよ」とわかるような布陣を取っていれば、それに気づいた相手は当然そこを攻めてくる。それが本当に弱点ならばまずいが、罠だったら、作戦成功だ。
そして、こちらが叩くのはどこか。
先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん。
敵が最も重視している箇所を奪えば、こちらのお思いのままだ。
この文はすでに前の記事で触れたが、叩くのは相手の急所だ。
善く敵を動かす者は、これに形(けい)すれば、敵必ずこれに従い、これに与うれば、敵必ずこれを取る。
うまく敵を操縦するのは、敵が動かざるを得ない状況を作り、敵が取りに行かざるを得ないようなエサをまく。
利を以ってこれを動かし、卒を以ってこれを待つ。
利益によって敵を動かし、強力な布陣を引いて敵を待ち構える。
アメとムチで相手の行動を自分の意のままに操り、罠にハメることだ。
団体スポーツにおいても、敵の裏をかくことはもはや必須の戦略の一つだ。
確かに優れた考え方だが、相手も同様に優れていればお互いに騙し合いが続くことになる。
戦勢は奇正に過ぎざるも、奇正の変は勝(あ)げて窮(きわ)むべからず。
戦いの形は「奇(奇襲)」と「正(正攻法)」で構成されるが、その組み合わせは無限であることを心得よ。
奇正の相生ずること、循環の端なきがごとし。孰(たれ)かよくこれを窮めんや。
奇と正は互いに影響し合いながら発生するが、それは終わりがない。それは誰にも窮められるものではない。
相手との読み合いには終わりがない、と孫武は言う。
これでは救いがない。
しかし、相手がこちらの動きを観察した後、深読みなどして、迷ったら、それでももうかなり有利になる。敵は出遅れるからだ。
そして孫武はこう言う。
およそ先に戦地に処(お)りて敵を待つものは佚(いっ)し、遅れて戦地に処りて戦いに趨く者は労す。
敵より先に戦地について敵を待てば余裕が生まれ、遅れて戦地につけば苦しい戦いとなる。
先に戦地に到着することが有利であるなら、その場所に一刻も早く到着しようと競争が始まる。
およそ兵を用うるの法、将、命を君に受け、軍を合し衆をあつめ、和(か)を交えて舎するに、軍争より難きはなし。
戦争の段取り、将軍が君主の命を受け、軍を編成し、戦闘態勢を整えるまでの中で、戦場への到着争いが最も難しい。
軍争の難きは、迂(う)を以って直となし、患(かん)を以って利をなすにあり。
その難しさは遠回りの道を近道とし、心配事を有利に持っていくことだ。
故にその道を迂にして、これを誘うに利を以ってし、人に後れて発し、人に先んじて至る。これ迂直の計を知る者なり。
だから遠回りをしているように見せて相手を油断させ、誘い、あとから出発したのに先に到着する。そういう戦略をとれるのは「迂直の計」を知っている者だ。
遠回りをしているように見えて近道とする、というのはどういうことだろうか?
真の目的地を隠し別の目的地に向かっているように見せかけるといったようなことだ。所謂急がば回れの精神で、相手がなぜこちらがそのような遠回りをしているのか理解できない状態を作り出すと戦いは有利に進む。
次回予告
情報戦で先んじて地の利を得れば、戦局をかなり有利にできる。
それでもいつ何が起きるかはわからない。状況に対し柔軟に対応すべきだ。
特に情報戦で対等か遅れを取っている状態ならどうするか。
次回は戦いを水になぞらえて学ぶ。
お楽しみに!
参考図書
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