マジわかるんですけど孫子

「超軟訳」マジわかるんですけど孫子

超絶簡単な言葉だけで説明された、読むだけで孫子が頭にすいすい入ってくるブログです。

第五章ノ一:兵の情は速やかなるを主とす。

風林火山という言葉を知っているだろうか。

甲斐の戦国大名武田信玄の軍旗に書かれていたと言う言葉だ。

これは孫子からきている、戦い方の指南だ。

Wikipediaによると、旗にはこの「風林火山」という言葉は使われておらず、 実際は孫子の原文の

疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山

と書かれていたそうだ。

小ネタはさておき、今回はこの風林火山を含む、情報格差がある中での戦い方の指南を勉強する。

4つの要素

孫武は相手との力が拮抗しているかどうかを4つの切り口で見ていたそうだ。

  1. 情報
  2. 環境
  3. 勢い(士気)
  4. 物量と組織力

情報とは、敵情をどれだけ知っているかや相手にいかに油断させるかなど、組織全体の緊張や方針を大きく左右するものだ。自軍と敵軍の認識を比較する。

環境とは、兵糧、資金、期間、地の利、疲労といった視点で自軍と敵軍の比較をする。

勢い(士気)とは、組織の士気が高揚しているかどうかや、勝ち癖、負け癖など、おそらくはトップの性格や組織の仕組み、戦績などに影響を受ける精神的なもので比較をする。

物量と組織力とは、兵器や兵の物量とその管理、組織の熟練度などで比較する。

重ねて、現代戦やビジネスにおいての戦いなどは他にも多少アレンジする必要があろう。

食糧の調達が生死を握る

軍を動かすには食糧の調達が不可欠だ。

素晴らしい戦車も燃料がなければ動かないのと同じように、人間も食糧がないと力を発揮しない。

出陣するにも十分な食糧の備蓄と継続的な運搬・供給方法が確立していないとすぐに失敗する。

孫武は言う。

国の師に貧するは、遠く輸(おく)ればなり。
戦争で国力が低下するのは、遠くまで物資の輸送をするからである。

遠く輸れば、即ち百姓(ひゃくせい)貧し。
遠くまで輸送すれば人民の負担が増す。

師に近き者は貴売(きばい)す。
リーダーのいる駐屯地では騰貴を招く(物価が高騰する)。

貴売すれば、即ち百姓、財尽く。
物価が高騰すれば、人民の資産が失われ、困窮する。

財つくれば、即ち丘役(きゅうえき)に急なり。
人民の資産が失われると、軍備税に窮する。

力屈し財つき中原の内、家に虚し。
国力が底をつき、蓄えがなくなる。

百姓の費(つい)え、十にしてその七を去る。
人民の所得の七割が軍事費となって消え去る。

 公家の費え、破車罷馬(はしゃひば)、甲冑矢弩(かっちゅうしど)、戟楯蔽櫓(げきじゅんへいろ)、丘牛大車(きょうぎゅうだいしゃ)、十にその六を去る。
 国家財政の六割が、戦車、装備、武器、軍馬といった軍事費として失われてしまう。

これほどに食料・物資の調達が最重要課題だと言われている。

そんな中、孫武は言う。

智将は務めて敵に食む。
智恵に優れたリーダーは敵地で食糧を調達する。

確かに自陣から持っていくより、目的地で調達した方が効率はよい。

しかし、そんな都合の良い話はない。

敵も相手がそんなことを考えていると知ったら対策をしてくるだろう。

それどころか逆手に取って罠を仕掛けるかもしれない。

しかし、相手に知られず、常識を超え意表をついた行軍を行った場合は、圧倒的に有利になるだろう。

神出鬼没

兵の情は速やかなるを主とす。
作戦は迅速さを第一とする。

(食料現地調達の戦略を採用するかどうかに限らず)畳み掛けるように迅速な戦略にするのがよい。

そして、速いだけでなく相手の想定を超えた攻めに出るのがよい。

その趨(おもむ)かざるところに出て、その意(おも)わざるところに趨く。
敵が行かないところに出没し、予想だにしないところに行く。

行くこと千里にして労(つか)せざるは、無人の地を行けばなり。
千里も行軍しても疲弊しないのは、敵がいないところを行くからである。

攻めて必ず取るは、その守らざるところを攻むればなり。
攻めて成功するのは、敵が守っていない所を攻めるからこそ。

守りて必ず固きは、その攻めざるところを守ればなり。
守って成功するのは、敵が攻めない所を守るからこそ。

故に善く攻むる者には、敵、その守るところを知らず。
だから攻撃がうまい者に対し、敵はどこを守るべきかわからなくなる。

善く守る者には、敵、その攻むるところを知らず。
守備がうまい者に対し、敵はどこを攻めるべきかわからなくなる。

微(び)なるかな微なるかな、無形に至る。
身を隠してことを進めれば、相手には見えない。

神(しん)なるかな神なるかな、無声に至る。
ひっそりと事を進めれば相手は物音さえ聞かない。

故によく敵の司命たり。
そうやって敵の命を手中に収めるのだ。

風林火山

その神出鬼没はかくあるべし。

ここで風林火山である。

実は風林火山のあとに陰(かげ)、雷霆(らいてい)と続く。

疾(はや)きこと風の如く、
風のように速く行動するかと思えば、

徐(しず)かなること林の如く、
林のように静まり返る。

侵掠(しんりゃく)すること火の如く、
火のように激しく侵略すると思えば、

動かざること山の如く、
山のように動かない。

知りがたきこと陰の如く、
陰のように身を潜めていると思えば、

動くこと雷霆の如し。
雷のように激し動く。

風林火山陰雷(ふうりんかざんいんらい)である。

風とそれを防ぐ林、あっという間に燃え広がる火とどっしり構えている山、暗い陰と光の雷。動は激しく、静はとことん潜む。自然現象のイメージを持ってメリハリつける。

やるときはやる。やらないときはやらない。組織としての意思を統一しなければこのようなメリハリは生まれない。だからこそ言うは易し、行うは難し、という面もあったろうに思う。

ちなみに、風林火山から漏れた陰雷だが、風林=動静、火山=動静ときているのに陰雷は静動となっているのが面白い。コントラストを強調するにも順番は重要だ。(陰の暗いところから雷の眩しい光をイメージする方が、逆の順番よりも印象的)

次回予告

守屋先生の著書の第五章は内容が満載なので、いったんここで記事を分ける。

神出鬼没はわかった。ではどこをどう攻めるべきなのか?

chiwahi2.hatenablog.com

お楽しみに!

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