第五章ノ二:人を形せしめて我に形なければ、即ち我は専にして敵は分かる。
前の記事で、神出鬼没が勝利の鍵であるとあった。
それはすなわち先手を取るということ。
では、先手を取られた敵はどのような動きをするか。
まずは攻め入られた箇所の対処に追われ、次に自陣の弱点を思われる他の場所にも防御線を配置するだろう。
我は専にして一となり、敵は別れて十となれば、これ十を以ってその一を攻むるなり。
こちらは一箇所に集中して攻め続ける間、敵は十に分散して防御すれば、相手の分散してしまった一の力に対しこちらは十の力で攻めることになる。
後手となった相手が動揺して分散してしまえばこんなに都合の良いことはない。
しかし相手も馬鹿ではない。そんなに簡単には行かない。
しかししかし、相手が分散防御しなければならない状況というのが存在しうる。
人を形せしめて我に形なければ、即ち我は専にして敵は分かる。
相手のことは手にとるようにわかっていて、こちらのことは相手に見えなければ、自軍は一点突破をしていても敵は分散防御せざるを得ない。
こちらが一点集中攻撃をしていることを悟られなければ分散防御せざるを得ないわけだ。
吾(われ)のともに戦う所の地は知るべからず。
こちらが攻め入るところが相手にわからないようにすべし。
知るべからざれば、即ち敵の備うる所の者多し。
わからない相手は防御する箇所を増やさなければならない。
敵の備うる所の者多ければ、即ち吾のともに戦うところの者は寡(すくな)し。
防御するところを増やせば、自軍の兵は小さくて済む。
ではどこに力を集中させればいいのか?
兵の形は実を避けて虚を撃つ。
軍備が充実した箇所を避け、弱い箇所を撃つ。
これは開戦前の配備状況だけでなく、開戦して混乱したとき冷静に見極めて戦いに活かすほうが実用的かもしれない。
我戦わんと欲すれば、敵、塁を高くし溝を深くすといえども、我と戦わざるを得ざるは、その必ず救う所を攻むればなり。
こちらが戦いたいときは、敵がどんなに塁(とりで)を高くし、堀を深く準備していても、戦わざるを得ないように仕向ければよい。そのためには敵が必ず守る箇所(急所)を攻めよ。
こちらが戦いたいというのは、今仕掛ければ勝てると踏んだときだ。しかし、相手が戦いに乗って来ない場合もある。そういうときは相手の手薄な箇所を攻めて戦いの場に引きずり出す。
先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん。
敵が最も重視している箇所を奪えば、こちらのお思いのままだ。
相手が慌てて攻め入ったところに駆けつけたら、次はこうだ。
近きを以って遠きを待ち、佚(いつ)を以って労を待ち、飽(ほう)を以って飢(き)を待つ。
有利な地形に布陣して遠くからやってくる敵を待ち、しっかり休養して相手の疲労を待ち、しっかり食べて相手の飢えを待つ。
相手は慌てて馳せ参じるわけだから、こちらはどっしりと腰を据えて準備を万端にする。長い距離を行軍するだけで相手は疲弊する。
また、長距離の行軍の仕方も色々考えられるが、(動きが悟られてしまえば)どうやっても弱点は露呈してしまう。
全軍重装備で移動→機動力に難あり
軽装備で移動→輸送部隊が後方に取り残される
分散しての行軍→各部隊の弱体化
敵は分散させ、自軍は集中し一点突破してから混乱を制し、戦局を掌握するのが上策だ。
次回予告
守屋先生の著書の第五章はまだ続く。いったんここで記事を分ける。
いよいよ勝負を決することになる。
最後の一手、どのようにすすめるべきだろうか?
お楽しみに!
参考図書
この本で勉強させていただいています。興味のある方はこちらをどうぞ。